大判例

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仙台高等裁判所 昭和55年(ネ)282号 判決

控訴人

株式会社徳陽相互銀行

右代表者

早坂啓

右訴訟代理人

三島保

三島卓郎

被控訴人

佐々木行樹

右訴訟代理人

織田信夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  申立

控訴代理人は「原判決を取消す。仙台地方裁判所昭和五二年(ケ)第八六号不動産競売事件につき同裁判所が作成した別紙記載の交付表中、被控訴人に交付すべき金一〇九〇万六〇〇〇円(元金七七九万円、損害金三一一万六〇〇〇円)の部分を削除し、右金一〇九〇万六〇〇〇円を控訴人に交付するべく、右交付表を更正する。訴訟費用は第一、二番とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。〈以下、事実省略〉

理由

一昭和五二年六月当時、控訴人が訴外債務者新栄観光開発株式会社(以下「新栄観光」という)の所有する本判決別紙物件目録記載の6の建物(本件建物)および同8の建物ならびに物上保証人たる訴外大塚得男(以下「大塚」という)所有の同目録記載1の土地(本件土地)、同大一商産所有の同目録記載2の建物ほか第三者の所有する同目録記載の3、4、5、7の各不動産を共同抵当の目的とする極度額一億五五〇〇万円の順位一番の根抵当権を有し、被控訴人が大塚ほか二名を連帯債務者として昭和三九年一二月二四日七七九万円を利息年一割、弁済期昭和四九年一二月二四日、遅延損害金年二割の約定で貸付け、右債権の担保として、本件土地等(本件土地と大一商産所有の建物につき順位二番の抵当権を有していたことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、本件土地等については被控訴人が右抵当権を順位一番で有し、控訴人の前記根抵当権は順位二番であつたが、昭和四八年一月一三日付で両者が右の順位を入れ替える合意をなし、同月三〇日その旨の順位変更登記がなされたことが認められ、〈証拠〉によれば、昭和五二年までの間に控訴人は新栄観光に対する債権を担保するため本件土地等および本件建物等(前記8の建物を含む)につき更に極度額二億七〇〇〇万円、その後また極度額三億二五〇〇万円の各根抵当権の設定を受けたことが認められる。したがつて、本件建物等については控訴人が順位一番ないし三番の根抵当権を有し、本件土地等については控訴人が順位一番、三番、四番の根抵当権を、被控訴人が順位二番の抵当権を有していたことになる。

二以下の事実も当事者間に争いがない。

昭和五二年六月二三日控訴人は右順位一番の根抵当権に基づいて仙台地方裁判所に不動産競売の申立をなし、本件土地等に関するものが同裁判所昭和五二年(ケ)第八五号事件として、また本件建物等に関するものが同庁同年(ケ)第八六号事件として各係属した。

最初に八六号事件におち前記8の建物についての競落許可決定が確定したが、その競落代金四九万八〇〇〇円は全額同事件の競売手続費用に充当され、その後八五号事件の競落許可決定が確定し、本件土地等の代金一八四五万円の納付がなされた。これにより控訴人は昭和五三年一二月二〇日の配当期日に、同日までの債権元本七億一九八六万〇八二八円、遅延損害金四億一五〇三万〇八七一円のうち、元本一四七〇万三三八〇円、損害金三一一万六〇〇〇円に対する各配当を受けた。

次いで八六号事件の競落許可決定が確定し、本件建物等の競落代金六億円が昭和五四年一月二六日に納付された。八六号事件につき債権計算書提出期限が昭和五四年二月二八日、配当期日が同年三月一九日と指定された。控訴人は同年二月二七日、前記三個の根抵当権の各極度額を合計した七億五〇〇〇万円から八五号事件で配当を受けた金額を控除した残額、元利合計七億三二一八万〇六二〇円につき計算書を提出した。

被控訴人は期限後の同年三月一四日八六号事件の債権計算書を提出した。これには元本七七九万円と昭和五二年三月二〇日から昭和五四年三月一九日までの年二割の割合による遅延損害金三一一万六〇〇〇円、合計一〇九〇万六〇〇〇円の交付を求める旨の記載がある。被控訴人の配当要求の根拠は、同人は本件土地等に二番抵当権を有するところ、これが八五号事件で競売された結果、物上保証人が新栄観光に対して取得した求償債権の担保として、本件建物等上の控訴人の一番抵当権に代位したことにより、八六号事件において物上保証人が交付を受けるべき金員の内金一〇九〇万六〇〇〇円を、被控訴人が民法三七二条、三〇四条の物上代位権に基づいて配当要求をなしうるというものである。

仙台地方裁判所は控訴人、被控訴人提出の右各計算書に基づき、八六号事件につき原判決別紙記載の交付表を作成した。これによれば、本件建物等につき控訴人の有する二番、三番の根抵当権は被控訴人の債権に劣後するものとされている。

三そこで控訴人主張の異議理由中、まず最高裁判所昭和五三年七月四日判決(以下「五三年判例」という)の事案と本件の事案との異同について検討する。

五三年判例は、債務者所有の不動産と、物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として順位を異にする数個の抵当権が設定されている場合において、物上保証人所有の不動産について先に競売がなされ、その競落代金の交付により一番抵当権が弁済を受けたときは、後順位抵当権者は物上保証人に移転した債務者所有の不動産に対する一番抵当権から優先して弁済を受けることができる、と判示する。

その理由とするところは、「けだし、後順位抵当権者は共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産の担保価値ばかりでなく、物上保証人所有の不動産の担保価値をも把握しうるものとして抵当権の設定を受けているのであり、一方、物上保証人は、自己の所有不動産に設定した後順位抵当権による負担を右後順位抵当権の設定の当初からこれを甘受しているものというべきであつて、共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産が先に競売された場合、又は共同抵当の目的物の全部が一括競売された場合との均衡上、物上保証人所有の不動産について先に競売がされたという偶然の事情により、物上保証人がその求償権につき債務者所有の不動産から後順位抵当権よりも優先して弁済を受けることができ、本来予定していた後順位抵当権による負担を免れうるというのは不合理であるから、物上保証人所有の不動産が先に競売された場合においては、民法三九二条二項後段が後順位抵当権の保護を図つている趣旨にかんがみ、物上保証人に移転した一番抵当権は後順位抵当権者の被担保債権を担保するものとなり、後順位抵当権者は、あたかも右一番抵当権の上に民法三七二条、三〇四条一項本文の規定により物上代位をするのと同様に、その順位に従い、物上保証人の取得した一番抵当権から優先して弁済を受けることができるものと解すべきであるからである。」というにある。

右は物上保証人と物上保証人の所有不動産に対する二番以下の抵当権者との優劣に関する説示であり、しかも債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とが等しく各順位の抵当権の目的となつている事案であるから、「後順位抵当権者」の意義はおのずから明白である。

本件は物上保証人所有の本件土地等について先に競売がなされた点は五三年判例の事案と同じであり、右判例の理論に従えば物上保証人である大塚らと物上保証人の所有不動産上の後順位抵当権者である被控訴人との関係においては、被控訴人が優先することになるが、被控訴人が債務者新栄観光所有の不動産(本件建物)に対しては抵当権を有しない(控訴人のみが一番ないし三番の根抵当権を有している)点で、右判例の場合と事案を異にするから、控訴人と被控訴人との関係においては、本件土地等に対する二番三番の順位のみによつてその優劣が決せられることになるかどうかが問題となる。

最高裁判所昭和四四年七月三日第一小法廷判決(以下「四四年判例」という)は、甲乙不動産の先順位共同抵当権者が、甲不動産には次順位の抵当権が設定されているのに、乙不動産の抵当権を放棄し、甲不動産の抵当権を実行した場合であつても、乙不動産が物上保証人の所有であるときは、先順位抵当権者は、甲不動産の代価から自己の債権の全額について満足を受けることができる、と判示する。その理由とするところは、「共同抵当権者が乙不動産のみについて抵当権を実行し、債権の満足を得たときは、右物上保証人は、民法五〇〇条により、右共同抵当権者が甲不動産に有した抵当権の全額について代位するものと解するのが相当である。けだし、この場合、物上保証人としては、他の共同抵当物件である甲不動産から自己の求償権の満足を得ることを期待していたものというべく、その後に甲不動産に第二順位の抵当権が設定されたことにより右期待を失わしめるべきではないからである。これを要するに、第二順位の抵当権者のする代位と物上保証人のする代位とが衝突する場合には、後者が保護されるのであつて、甲不動産について競売がされたときは、もともと第二順位の抵当権者は乙不動産について代位することができないものであり、共同抵当権者が乙不動産の抵当権を放棄しても、なんら不利益を被る地位にはないのである。」というにある。

右の物上保証人Aと債務者の所有不動産上の後順位抵当者Bとの優劣に関する説示であり、Aの所有不動産に対して抵当権を有しないAのする代位に劣後し、Aの所有不動産について代位することができないとするものである。この事案において、Aの所有不動産に対する後順位抵当権者Cがあり、これについての競売が先になされたとすれば、五三年判例の理論によりCはAの取得した一番抵当権から優先して弁済を受けることができるから、当然Bに優先することになる。それはBが債務者所有不動産上の後順位抵当権者であり、Cが物上保証人所有不動産上の後順位抵当権者であることからの帰結なのである。

判旨したがつて本件の場合、債務者新栄観光所有不動産上の後順位抵当権者である控訴人と物上保証人である大塚ら所有不動産上の後順位抵当権者である被控訴人との関係では被控訴人が優先するとせざるをえない。

しかして五三年判例のいう「共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産が先に競売された場合、又は共同抵当の目的物の全部が一括競売された場合との均衡上、物上保証人所有の不動産について先に競売がされたという偶然の事情」から生ずる不合理は容認されるべきでないとの観点から本件を見るに、本件土地等以外のその余の全物件(本件建物等)について先に競売がなされた場合を想定すれば、控訴人の有する各根抵当権極度額を限度とする債権額の合計が七億五〇〇〇万円であるのに対し、その競落価額は別紙競落価額等一覧表記載のとおり(以下同じ)六億〇〇四九万八〇〇〇円で右債権額に満たないから、その代金は控訴人のみに交付されるが、これによつて、一番、二番の根抵当権はその極度額の債権の満足により消滅し、三番根抵当権のうち一億六九七七万一四七〇円(配当総額から右一、二番抵当債権額を控除したもの。以下同様の計算方法による)が残る。その後本件土地等について競売がなされれば、控訴人の一番根抵当権は既に消滅しているから、被控訴人は順位の昇進した自らの抵当権に基づき控訴人に優先して弁済を受けることになる。

次に同時配当の場合、すなわち本件土地等と本件建物等について同時に配当がなされる場合はどうかというに、その配当総額六億一二七〇万四三九〇円のうち一億五五〇〇万円がまず控訴人に配当され、この段階で各物上保証人の債務者新栄観光に対する求償権(但し、各物件の競落価額の全体に対する按分割合による金額であり、本件土地等の右割合は2.98パーセントであるから〈1845万円÷6億1894万8000円=0.0298〉大塚と大一商産の合計した求償債権額は四六一万九〇〇〇円〈1億5500万円×0.0298=461万9000円〉となる)に基づく物上代位権が新栄観光所有の本件建物の配当総額四億一五四七万二二〇七円の残額三億一〇〇七万二二〇七円に対して生ずるが、そのうち大塚と大一商産の代位権は前示のとおり本件土地等の後順位抵当権者たる被控訴人および控訴人に劣後する。この場合本件土地等につき第二順位の抵当権を有する被控訴人が第三、第四順位の抵当権者である控訴人に優先して右第二順位の抵当権によつて担保される債権額相当の金員の交付を受けることになる。けだし、被控訴人の債権額中前記四六一万九〇〇〇円に相当する権利は、物上保証人が民法五〇〇条、五〇一条によつて取得した求償権そのものの効力としてではなく、これを基礎としながらも物上保証人に移転した控訴人の一番根抵当権が後順位抵当権者の被担保債権を担保するものとなり、「後順位抵当権者は、あたかも右一番抵当権の上に民法三七二条、三〇四条一項本文の規定により物上代位をすると同様に、その順序に従い」右抵当権から優先して弁済を受け、被控訴人の残余の債権額はその二番抵当権そのものの効力により被控訴人の三番、四番、根抵当権に優先して弁済を受けることになるからである。

いずれにせよ、本件土地等以外の全物件が先に、または本件土地等を含む全物件が同時に競売された場合には、被控訴人が控訴人に優先するのであるから、本件の場合においても右と軌を一にしなければ「偶然の事情により不合理な結果が生ずる」ことになる。

よつて控訴人主張の異議理由(二)は採用できない。

四前同異議理由について

控訴人は大塚が物上代位権不行使の特約をしていたと主張する。〈証拠〉(いずれも根抵当権設定契約証書)によれば、大塚は自己自身大一商産の代表取締役として、本件各根抵当権を設定した都度、物上保証人が弁済等により債権者たる控訴人から代位によつて取得する権利は、控訴人と新栄観光との取引が継続している限り、控訴人の同意がなければ行使しない、との約定をしていることが認められる。本件競売によつても新栄観光の債務が残存している以上控訴人との取引関係が継続しており、大塚は控訴人の同意なしには物上代位権を行使しえないわけである。

判旨しかしながら債権者と物上保証人との間の右特約は、物上保証人所有の不動産に後順位抵当権を取得した者を拘束するものではない。けだし、前段説示のとおり、後順位抵当権者は物上保証人が民法五〇一条によつて取得した求償権そのものの効力としてではなく、弁済により物上保証人に移転した債権者の先順位抵当権が後順位抵当権者の被担保債権を担保するものとなることにより(その効果は契約によつて生ずるものではない)、右抵当権から優先して弁済を受けうるものだからである。よつて控訴人主張の異議理由(一)も採用できない。

五前同異議理由(三)(四)(五)(六)について〈省略〉

六以上のとおり控訴人の主張する異議理由はすべて理由がなく、本件交付表に誤りはない。よつて控訴人の本訴請求は失当であり、これと同趣旨の原判決は正当であつて本件控訴は理由がないから棄却すべく、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条に則り主文のとおり判決する。

(田中恒朗 佐藤貞二 小林啓二)

物件目録、競落価額等一覧表〈省略〉

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